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「バラ戦争」 第5戦

Since : 1999/08/31
Last update : 1999/09/05

問題

 ナンシイは、メトロポリタン美術館で、一番気に入った一枚の絵を眺めていた。ふっと横を見ると、ティティが微笑みながらナンシイの顔を見ていた。
 「カサビアンカ?」と、ティティがたずねた。
 「おどろき、もものき。」と、ナンシイもにっこりと笑いながらいった。「もうひとつのほうよ。」
 「そうね。」と、ティティはちょっとさみしそうな顔をしてゆっくりとうなずきながらいった。「でも、こうなる前にいろんなことやったわ。」
 その顔は、また楽しい思い出に微笑んでいた。

 「ねえねえ。」と、ロジャがふたりのそでを引っ張りながらいった。「こまないうちに早くお昼にしようよ。」
 3人は1階に下りて、噴水のあるレストランにやってきた。すでに満席だった。
 「かまわないわ。」と、ナンシイがいった。「この箱をテーブルの代わりにすればいいわ。」
 3人は箱のまわりに腰をおろした。箱には大きくT&Lと書いてあり、右上の方にはなぜか海賊旗の絵まで描いてあった。
 「わたしは何でもいいわ。」と、ナンシイがいうので、ティティとロジャで適当に料理を注文した。
 しばらくして、テーブルに料理が並べられた。
 「すごい!」と、ロジャがつぶやいた。
 テーブルのまん中には、大きなびんがあった。その下にはなぜかまた海賊旗の絵が描いてあった。
 「これあげる。」と、ナンシイがいって、ひとつの皿をロジャによこした。「これだけは駄目なんだ。」
 その皿の左上にも海賊旗の絵が描いてあった。
 テーブルには持ち帰り用のお菓子でも入っているのか、紙袋がひとつ置いてあった。出てきた料理をたいらげてもまだおなかが満ち足りなくて、
 「つつみ紙をやぶいてもいい?」と、ロジャがいった。
 その紙袋の右にもまた海賊旗の絵が描いてあった。

 「ねえ、」と、ロジャがいった。「どうしてあっちこっちにドクロの絵がかいてあるんだろう。」
 「それ、きっと宝のありかを示してるんだわ。」と、ティティがいった。


解き方

(引用した部分については、【 】内に発言者・情報提供者の名前を示しています。)

長いヒントです。何度もよく読みましょう。手がかりになりそうなのが、いくつか浮かび上がってきます。

まず、「カサビアンカ」ですが、これはアマゾン海賊が詩を覚えて後で暗誦するように大おばさんに命じられた時に、フリント船長の機転で選ばれた詩です。アマゾン海賊は、既に学校で覚えていたので、とっくに暗誦できる詩でした。

「他のものがみなにげさりしもえる甲板に少年はたちたり。」・・・『ツバメの谷』 24章P367

ナンシイは「燃える船」の絵を見ていたのでしょう。「もうひとつのほう」という言葉と「ティティのさみしそうな顔」から、ナンシイは「ヤマネコ号の炎上」を思い起こしていたことが分かります。答えは『女海賊の島』にあるのでしょうか?

「カサビアンカ」豆知識
この詩は戦いに敗れて沈み行く船に最後まで残った13才の少年「カサビアンカ」のことを、うたったものです。最後にはとうとう少年もろとも船が爆発してしまいます。この少年の父親は東洋の提督(the Admiral of the Orient)で、きっと船の上での自分の仕事を父に言い付けられていたのでしょう。他の皆がもう船を去った後も「父よ、もう私の仕事は終わったのでしょうか?父よ、返事をして下さい!もう行っていいのでしょうか?」と叫びながらも、責任を果たすべく一人船に残っていたのです。ナンシイが好みそうな内容の詩です。
作者はFelicia Dorothea Hemans(1739-1835)というイギリスの詩人です。
これは、イギリスでは最初の2行だけは誰でも知っているけど、3行目になると知らない人がほとんどという詩で、こんな替え歌も出来ているそうです。 【ミルクの森】
他のものがみなにげさりしもえる
甲板に少年はたちたり
ばっかだねえ

さて、海賊旗の絵の方も追いかけてみましょう。

まず、「T&Lと書かれたテーブル代わりの箱」ですが、これは『スカラブ号の夏休み』5章P70にテート・ライル印の砂糖ケースが登場し、犬小屋に運ばれて、テーブル代わりに使われています。「テート・ライル」は、原文では「Tate & Lyle」となっています。(欧州最大の製糖会社・1921年設立、本社ロンドン 【ミルクの森】)

次に、「すごい!」と、ロジャがつぶやいた、テーブルに広げられた料理というのは、『女海賊の島』14章P254のケンブリッジ風の朝食です。その時、テーブルのまん中には、クーパー社のオックスフォードマーマレードの大びんがありました。

ナンシイが苦手な食べ物といえば、『スカラブ号の夏休み』冒頭P12に登場する「タピオカかサゴ」です。

ロジャが「つつみ紙をやぶいてもいい?」と言いながら破いた紙袋は、『ひみつの海』5章P59に登場するガリバルジー印のスカッシュフライ・ビスケットです。

砂糖、マーマレード、タピオカかサゴ、スカッシュフライ・ビスケット・・・食べ物ばかりですね。これらが一緒に登場する所に聖像さまの隠し場所があります。そこが分かれば、右上・下・左上・右の意味も分かります。

それはどの巻でしょうか。最初の「カサビアンカ」のヒントから『女海賊の島』でしょうか?実は違います。ヒントをよく読むと、ティティが「でも、こうなる前にいろんなことやったわ。」と言って、その顔は、また楽しい思い出に微笑んでいました。つまり、ヤマネコ号が炎上する前の『ヤマネコ号の冒険』に、正解が隠されています。


答え

3巻『ヤマネコ号の冒険』 第9章「ビーチイヘッドからワイト島へ」 P142 「ヤマネコ号の調理室のイラストの中にある菓子パンの箱の中」


解説

赤薔薇軍が、「イラストの中に隠す」という取っておきのアイデアを活かした問題でした。「美しい、見事な問題」ということで、紫のバラ軍から「紫のバラアカデミー賞美術賞」が赤薔薇軍に贈られました。また、紫のバラ軍のミルクの森さんには、ナンシイの心意気を正しく理解していることと、この戦いでの貢献を称えて、赤薔薇軍から初の「ナンシイ勲章」が贈られました。

また、どこがヒントの核心なのかが一見して分からない、物語風の長〜いヒントの第1号でもありました。このスタイルのヒントはこの後もよく使われることになります。

紫(守護神=ロジャ)に続いて青バラ軍(守護神=デイジー)も正解を出したので、はたしてロジャ対デイジーの大将戦はいかに・・・

史実をひも解くと、ロジャからデイジーに向かって「まぬけづらめ。」と、先に先制攻撃を放っております。その後、すぐにまた「まぬけづらめ。」と、第2撃も放っております。その翌日には、ロジャはデイジー達をあわれむように、見ています。デイジーも負けてはいません。「オイハラエ」「オイダセ」と、攻撃指令を発しています。いったいどうなることでしょう。

と、楽しみだったのですが、青バラ軍は、大将戦を辞退して、紫のバラ軍に次の戦の出題権を譲りました。当時は、原則として1〜2週間の間に問題を作って開戦することがルールとなっていたため、青バラ軍将軍の土人仕事多忙により問題作りが間に合わないだろうという事と、紫のバラ軍が既に次の問題を用意している事が明らかになっていたためです。

その後も各軍は問題作りにどんどん時間をかけるようになって、1〜2週間の準備期間ではかなり時間的に苦しくなってきたため、第8戦以降は、出題軍は好きなだけ時間をかけて準備していいこととなりました。

ちなみに、青バラ軍は、この時の大将戦辞退以降、大将戦で一度も勝てないという状態が続いています。(第10戦終了時現在において)


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