アーサー・ランサムの世界 by COOT

ディックの手帳

Since : 1999/01/08
Last update : 1999/11/01

このページは、アーサー・ランサム・クラブ(ARC)の仲間や@nifty(旧ニフティサーブ)のFSHIP(船舶海洋フォーラム)「てぃーるーむ アーサー・ランサム」と「かるた室 アーサー・ランサム」会議室のランサマイト仲間の助けを得て作るプロジェクトです。これらの会議室で話題となった、ランサム・サガに出てくる鳥、昆虫、植物の中で、普段あまり馴染みがないものを中心に、正体を探っていこうと思います。【】内は、情報提供者のニックネーム(敬称略)です。(ニックネームのことを、ARCではミドルネーム、@niftyではハンドルと呼んでいます)


植物編

目次

ニワトコ(elder)

『長い冬休み』第9章「検疫停船」P136 【ドンキイ】
いいえ、ほんとうに今はニワトコのお酒はいりませんよ。
『ツバメ号の伝書バト』第17章「キャンプの移動」P242 【HEARTY】
ニワトコのやぶの下に、サイダーをしまうすずしい貯蔵室もつくった。
『ツバメ号の伝書バト』第28章「炭焼き」P405 【HEARTY】
ペギイはスイカズラのやぶの下の貯蔵庫へいった。そこの地面に掘った穴を冷蔵庫にして、かんづめ類が全部しまってあるのだ。

『ツバメ号の伝書バト』の2箇所について: 原文で調べると、「a cool cellar under an elder bush」と「the store under the elderberry bush」でした。elderという名前の低木になる実をelderberryというみたいです。事典で調べると、ニワトコ=elderで、これはスイカズラ科と書いてありました。また、(スイカズラ科の)スイカズラ=honeysuckleでした。elderberryをスイカズラと訳してあるのはちょっとおかしいようです。ということで、この2つはたぶん同じ場所のことをいってるんじゃないかと思います。 【COOT】

ニワトコは庭常とか接骨木と書き、スイカズラ科の落葉大低木で、4月に白い花を咲かせる高さ3〜6mの木だそうです。茎葉や花は生薬となり、煎じて飲めば風邪やリュウマチ、むくむや腎臓機能の回復に効果があります。ヨーロッパではニワトコは薬草として長い伝統があるのだとか。 【ドンキイ】

ニワトコの実はワインやゼリーに使われますが、それ以外の部分、特に根には、下痢を引き起こす成分が含まれているので気をつけましょう。茎をストローや吹き矢の筒にして遊んでいた子供が中毒をおこした例もあるそうです。だから、動物は、たいていニワトコには近づきません。でも、幹や枝の黒焼きは、骨折や打ち身などの治療に使われていました。そのため、別名セッコツボク(接骨木)といいます。 【COOT】

ニワトコ

ヒゴタイサイテ(sea holly)

『ひみつの海』第16章「敵の国」P244 【ドンキイ】
「いたた! ねえ、ブリジット。このヒゴタイサイテには気をつけてね。陸に生えるのとおなじようにちくちくするから。」

sea hollyを辞書で引いてみたら、「セリ科ヒゴタイサイコ属の多年草」とありました。(そう、辞書には「サイコ」とあります。「サイテ」はちょっとわかりません。誤植かな。)そのセリ科ヒゴタイサイコですが、「ヨーロッパ原産の多年草。深緑で匍匐枝を生じ、高さ50〜80センチ」だそうです。もうひとつ、sea hollyには「ハアザミ」という意味もありますが、これがどんな植物だかの描写は辞書にはありませんでした。ランダムハウスでひいたら、sea hollyは「エリンギウム。セリ科ヒゴタイサイコ属の多年草;地中海地方、南米産」と出ました。 【ミルクの森】

私が絵でみたのは、ハアザミではなく、間違いなくヒゴタイサイコのほうでした。学名Eryngium maritimumで確認しました。Amerikan Heritage Dictionaryには、sea hollyはそれしか載っていませんでした。 【Titmouse】

いやいや、驚きました。ヒゴタイサイテって、近年日本のガーデニング愛好家の間でも人気のある、エリンジュームのことだったんですね。紫色のものが多く出回っているようで、ドライフラワーにもむくそうです。高温多湿に弱く寒さに強い宿根草(一度植えると毎年さくもの)で、わりと育てやすいのでしょうか、「おすすめ草花」といった本によく載っています。たまたま家にあった二冊の本をみてみると、一つには別名ヒゴタイサイコとあり、もう一つにはシーホリー、マツカサアザミとありました。花の名前って、学名、和名、流通名などいろいろあって、ややこしいですよね。 【ピール】

オニナベナ(teasel)

オニナベナというとよく分からないですが、ティーゼル号のteaselのことです。

なんでこんなチクチクしそうな妙ちくりんな花を船名にするんだろう?って思いました。【カカオ】

これはちょっと調べてみるとなかなか面白いことが分かりました。このチクチクのおかげで、teasel(の一種)には商用価値があって、ドライフラワーにしたのは「毛織物のけばを立てる」のに使えるのです。この種のteaselは、「fuller's teasel」、別名「clothier's teasel」とか「clothier's brush」とも呼ばれています。【COOT】

はたしてイギリスでは船名にするほどポピュラーな花なのかどうか【カカオ】

というカカオさんの疑問ですが、この「ポピュラー」というのが「一般的」という意味なら答えはイエスみたいです。説明文には「イギリス原産の二年生植物。イギリス南部、中部の道ばた、牧草地、森の周辺、川岸などによく見られる」とありました。【ミルクの森】

きばなのくりんざくら(cowslip)

『オオバンクラブの無法者』 第22章「提督」故郷に帰る」P348【DIXON】
‘Babbing,'said Tom.
  (「ウナギのじゅずご釣りだよ。」と、トムがいった。)
‘That red thing's nothing but worms,'said Port.
  (「あの赤い玉はミミズのかたまりなのよ。」と、スターボードがいった。)
‘Made like a cowslip ball,'said Starboard,and Dorothea was very nearly sick.
  (ドロシアはあやうく吐き気をもよおすところだった。)

ポートのセリフがスターボードになってまして、スターボードのセリフはなくなっちゃってます。【DIXON】

ヨーロッパのcowslipは、大きな黄色と紫の花の房がなるそうです。(cowslipの写真へのリンク)【COOT】

Cowslipはどこかで聞いた名前だと思っていましたが、ウォータシップダウンでのウサギの名前でありましたね。【Grog】

cowslip ball情報、OEDによると、これは「子どもがキバナノクリンザクラの花で作る玉」なのだそうです。用途などは書かれていないので、遊びの一種なのでしょうか。「うなぎのじゅずご釣り」と訳されているbabbing(bobbingとも書く)も調べてみました。するとこれは、ノーフォークの漁師がウナギを捕る方法で、「ミミズに糸を通してかたまりにして」餌にするのだとか。きっと子どもたちがサクラソウのようなcowslipの花をつないで球状にするときも、糸を使うんじゃないでしょうか。だから「キバナノクリンザクラを糸でつないで球を作るときみたいにして、丸くするのよ」というスターボードの台詞を聞いて、ドロシアはミミズに糸を通すところを想像して気持ち悪くなったのでしょう。【ミルクの森】

猛毒のイヌホオズキ(deadly nightshade)、ベラドンナ(belladonna)

『スカラブ号の夏休み』第5章「模様がえ」P68【ドンキイ】
「なんの花をつんできましょうか?」と、ドロシアがいった。
「猛毒のイヌホオズキがいちばんだと思うな。」と、ナンシイがいった。

「大おばにふさわしい花」イヌホウズキには、本当に毒があるのでしょうか?【DIXON】

ここでナンシイが言っているイヌホオズキは、英語ではdeadly nightshade。これが「猛毒の(deadly)イヌホオズキ(nightshade)」と訳されているのですが、これは、実はベラドンナのことでした。で、ベラドンナといえば、「Deadly(猛毒の)という名前の通り、本当に猛毒で、おいしそうな実がなるので、子どもが食べないように要注意。子どもなら2粒も食べれば死んでしまう」そうです。「眼科の検査で瞳孔を開くのに使うアトロピンという薬は、この植物からとれる」のだとか。ベラドンナ(イタリア語で「美しい女性」という意味)という名前は、この花の汁が化粧に用いられたところから来ているそうです。このほかに普通のnightshadeがあって、これのことをよくdeadly nightshadeと呼ぶけれど、それは間違いとありました。ここでナンシイが言っていたのは、だから本当に猛毒の花だったのです。【ミルクの森】

万一食べてしまった時の応急処置には酢がいいそうです。【COOT】


昆虫編

コヒオドシ(tortoiseshell butterfly)

『ツバメの谷』第4章「AB船員とボーイの探検」P71【DIXON】
すると、そのとき、日にあたたまったすぐそばの石の上に、一匹のコヒオドシが、茶、青、だいだい、黒にそまった羽に日光をいっぱいうけて、じっととまっているのをみつけた。
 ・・・
ティティは、よく見ようとして、つま先立ってチョウを追ったが、チョウがとまっているヒースにさわれるくらいまで近づいたとき、チョウのことなどすっかり忘れてしまった。チョウがまたとび去っても、目で追おうともしなかった。
 「ロジャ! ロジャ! 洞穴をみつけたわよ!」と、ティティはさけんだ。

この印象的なシーンで活躍したのがコヒオドシです。タテハチョウ科に属します。写真はこちらにあります。日本でも夏にコヒオドシを見ることができます。北海道では平地でも見れます。 中部地方だと高山帯にいます。【COOT】

札幌近郊の夕張郡栗山町というところに、昆虫 の観察舎(通称「蝶の館」)があって、そこにはコヒオドシの標本も展示されています。そこの係のおじさんによると、「コヒオドシの幼虫の食草はたぶ んイラクサだと思う。オスとメスは、色はオオムラサキほど極端には違わない。 メスの方が大きい。」とのことです。【ポラリス】

アカタテハ(red admiral)、ヒョウモンチョウ(fritillary)

『スカラブ号の夏休み』第4章「犬小屋」P61【DIXON】
「鳥の観察にはとてもいい場所だよ。」と、ディックがいった。「チョウの観察にもいい。小屋を出てすぐのところで、アカタテハを一匹、ヒョウモンチョウを何匹か見たよ。それから、さっききこえた音は、キツツキにまちがいないと思う。」

「アカタテハ」は原文では"Red Admiral"となっています。"Red Admiral"(赤い提督)の和名は、正しくは「ヨーロッパアカタテハ」です。日本で見られる「アカタテハ」の英名は"Indian Red Admiral"となります。近縁種なので姿はそっくりです。

アカタテハは、日本でも北海道から沖縄まで広く分布しています。年に数回発生し、5月〜秋まで見られます。成蝶で越冬するので早春に見られることもあります。樹液や花やくさりかけた果物に集まります。でも感覚が敏感でなかなか人を近寄せません。コヒオドシと同じくタテハチョウ科に属します。【COOT】

「ヒョウモンチョウ」(原文では"Fritillary")もタテハチョウ科で、いろいろな種の蝶があります。ヒョウの紋みたいに黄色に黒の斑点のある羽を持った蝶もいます。写真はこちらです。

キツネカレハの幼虫(fox moth caterpillar)、アカモンドクガ(vapourer)、ヒトリガ(tiger moth)、毛グマ(woolly bear)

『スカラブ号の夏休み』第24章「のんびりした休暇」P355【DIXON】
 ディックだけは、べつのことを考えていた。「ここにヒースがないだろうってことを忘れていたよ。火に焼かれなかったむこう側の斜面までのぼらなくちゃだめだね。」
 「なんのためにだね?」と、ティモシイがたずねた。
 「キツネカレハの幼虫です。」
 「なんのために、それがほしいんだい?」
 「アカモンドクガほどおもしろいものじゃありません。」と、ディックがいった。「でも、今までつかまえたことがないんです。ヒースで育ち、冬眠しますが、春になるまでサナギにならないやつなんです。」
 「どんな色してるの?」と、ナンシイがたずねた。
 「茶と黒のビロードみたいなんだ。」と、ディックがいった。

『スカラブ号の夏休み』第24章「のんびりした休暇」P364【DIXON】
 「いた、いた。」と、ディックがさけんだ。
 「何が?」ティモシイがぎょっとしていった。そして、老人とふたりでふりかえってみた。
 「キツネカレハの幼虫です。」ディックがうれしそうにいった。
 「毛グマの一つだね。」と、ボブ老人がいった。
 「ほんとうは毛グマじゃないんです。」と、ディックがきまじめにいった。「毛グマはヒトリガの幼虫です。」

ディック が「キツネカレハの幼虫」をずっと探していて、とうとう見つけるシーンは印象的です。

和名について

「キツネカレハ」(原文では"fox moth")、「アカモンドクガ」(原文では"vapourer")、「毛グマ」(原文では"woolly bear")というのは、正しい和名ではないようです。

ランダムハウス第2版にfox mothが載っていました。ヨーロッパカレハガとありました。woolly bearの第一義は「クマケムシ(熊毛虫):ヒトリガ(tiger moth)など毛の特に多い幼虫の総称」でした。
vaporer mothというのが出ていました。=tussock moth「ドクガ:ドクガ Lymantriidaeのガの総称;マイマイガ(gypsy moth)を含む」(ランダムハウス) と出ました。単語系に比較的強いリーダーズでも「ドクガ《ドクガ科のガの総称》としか出ませんでした。【ミルクの森】

カレハガ科は日本に約20種を産し、どれも「何々カレハ」という和名がついて います。マツカレハ、オビカレハ、リンゴカレハなど。 そのことと、fox mothという英名から、訳者がキツネカレハという名前を作っ たのではないかと、私は想像しています。【吉原 一美】
な〜るほどと思い ました。賛成です。ヨーロッパが舞台の物語で「ヨーロッパカレハガ」とは訳せないですね。訳者の苦労が伝わってきます。ディックはこの訳に反対でしょうが、ドロシアは賛成しそう。【COOT】

アカモンドクガというのは日本にもいて、私の手元にある保育社の原色 日本蛾類図鑑(改訂新版)(下)に出ています。日本産のやつは、学名を Orgyia recens approximans といい、「原名亜種はヨーロッパに産し、幼虫は サクラ・クヌギ・バラその他種々の植物に寄生する」(同書24頁)とあります。 つまり、日本産のアカモンドクガの原名亜種(すなわちOrgyia recens recens)が ヨーロッパにいることだけは、確かのようです。【吉原 一美】

幼虫・成虫の写真・イラスト

残念ながら「キツネカレハの幼虫」の写真はディックと違ってまだ見つからないのですが、枯葉に擬態して隠れるのが得意なカレハガの成虫の写真は見つかりました。ディックはアカモンドクガの方が面白いと言っていますが、写真で見る限りはキツネカレハ(カレハガ)の方が面白いです。キツネカレハは地味ですが、ボブ老人が間違えたヒトリガの方は結構きれいです。【COOT】

もし毛虫に刺されたら?

『スカラブ号の夏休み』第24章「のんびりした休暇」P365【DIXON】
そして、リュックサックから箱をとり出すと、ナイフでヒースをすこし切って箱に入れ、ヒースのやぶにくっついている毛虫を用心してつまみあげて箱の中に落とし、両手を地面にこすりつけた。
 「この毛なんだよ。」と、ディックがいった。「この毛にさわった手で、べつの手の甲やほなんかにさわると、ものすごくかゆくなるんだよ。」

蝶や蛾の幼虫が100匹いたとすると、その中で毛の多い「毛虫」は20匹くらいの割合で、毛の少ない「いも虫」の方がずっと多いです。「毛虫」の中でもさらに人を刺す種類のは50匹に1匹くらいの割合ですが、家の庭とかに身近にいる毛虫の中に、そういう毒を持つ種類のが多いので、よく刺されることがあります。うちの子どもも以前、チャドクガにやられたことがあります。ディックは、さすがに用心しつつ捕まえました。もし刺された時は、ガムテープなどで刺さった毛を取り除いて、シャワーなどで洗い流します。服にも着くので、その時に着ていた服はすぐに洗った方がいいです。【COOT】

ブラックン・クロック(bracken clock)、コフキコガネ(June beatle)

『スカラブ号の夏休み』第13章「マスをくすぐる」P179 【ミルクの森、ドンキイ】
「ブラックン・クロックってなんだい?」「コフキコガネのことだよ。」とジャッキイがいった。

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鳥編

大ウミガラス(Great Auk)

『シロクマ号となぞの鳥』第8章「あの船がまだいる!」P145 【DIXON】
「ディックが鳥の研究家のところへ、大ウミガラスのことをききにいくのよ。」
'Dick's going across to the Pterodactyl to ask his bird-man about the Great Auk.' (原文)
『シロクマ号となぞの鳥』第18章「夜の小島を行く」P305 【DIXON】
「大ウミガラス、ウミガラス!」と、小川のむこう岸で小さな声がした。
'Great Guillemots!' said a quiet voice from across the stream, (原文)

オオウミガラスは、『シロクマ号となぞの鳥』に出てきます。言葉だけですが・・・だってオオウミガラスは絶滅しているから。 145ページでナンシイが冗談の種に使っているところをみると、当時かなり話題になった鳥なのかも知れません。 305ページでの『大ウミガラス、ウミガラス!』(Great Guillemots) は「シバー・マイ・ティンバー」と同様意訳みたいで、実際はGreat Aukですね。 こども電話相談室で、よく『どうしてペンギンは南極にしかいないのか』 との質問がありますが、大ウミガラスこそもともとペンギンと呼ばれていた鳥だったらしいです。私の受け売りの知識によると。 大ウミガラスは、鈍臭い鳥で、飛べないし、走って逃げる“足”もない し、人間の格好の標的になったみたいで乱獲されて数が減り、そのため珍しい鳥に格上げ(?)されたために、今度は博物館が一級資料として 好んで剥製や卵の標本を掻き集めたため、とうとう絶滅してしまったとのことです。なんとも悲しいお話ですね。 その後南半球で、今のペンギンを見付けた人が、『なんだ南極にもペン ギン(大ウミガラス)がいるじゃないか』といって、絶滅した鳥にペンギンという名を残していても仕方がないと考えたのか、この新しい鳥の方がペンギンになってしまった。名前まで取り上げられてしまってかわいそうね、オオウミガラス。 トキもそうなりかけてますが、科学の名のもとに犠牲になってしまったのでした。(以上聞きかじりのお話でした。)【DIXON】

オオウミガラスのイラストと詳しい説明はこちらです。【COOT】


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