旅作りのヒント【こだわりの旅】

イギリス湖水地方「憧れの地」の旅

Last update : 2004/12/04


1980年の夏、初めてのヨーロッパ旅行にバックパックで行きました。海外旅行としては2回目でしたが、初めての自由旅行(貧乏旅行とも言う)で、これが私の旅人生の大きなマイルストーンとなっています。

この旅の最大の目的のひとつが、私の愛読書アーサー・ランサム著「ツバメ号とアマゾン号」シリーズの舞台であるイギリスの湖水地方、その中でも「ウィンダミア湖」を訪ねることでした。ランサムやその作品にゆかりのある場所は湖水地方のあちこちにあるのですが、当時は資料も無くまわりにランサム・ファンもいなくて、「ウィンダミア湖」だけが私の聖地でした。

お金が無い貧乏旅行の様子(ちなみに当時は1ポンドが約530円!)や、初めての海外での自由な一人旅の、その時の気持ちが素直に出ている「旅日記」をなるべくそのままここに書こうと思います。文中で斜体文字で書かれているのはランサムの作品の中で使われている架空の名前です。

★★★ 写真は全てクリックすると拡大します ★★★

成田から南回りでロンドンへ飛んで、そこで3泊した後、あこがれの湖水地方へ向かいました。

1日目(ロンドン〜ウィンダミア)

ロンドンで泊まったB&Bの朝食の時、隣のテーブルにいた人なつこいイタリア人が話しかけてきて、楽しかったけどおかげでユーストン駅発8:45の列車に間に合わなかった。列車はこれが2等かと思うくらいにいい。(写真:列車に15日間乗り放題のブリットレイル・パス) 新幹線よりも座席はいいし、テーブルまでついていて、その上でこの日記を書いている。

ロンドンを一歩出ると僕が待ちに待った景色がすぐさま地平線までひろがった。牧草や小麦畑に羊、牛、馬が放たれている。緑の中に茶色の色が点在する。緑の中に赤や黄色の花が咲き乱れている。天気もいいし、列車も空いていてガラガラ。ちょっと寒い。

この列車はオクセンホルム駅には止まらないようだ。2時間半くらい損したなあ。でもケズウィックから湖水地方に入る気はしない。最初の感激はウィンダミアで味わいたい。もうすぐ僕のユートピアだ。

ランカスターで乗り換えのため1時間。ちょっと歩くととっても安い店を見つけて感激して飛び込んだ。「steak pudding with some gravy + chips」で60p、それに12pのティー。久しぶりに1ポンド以下でいっぱい食えた。駅の方に戻る途中、右手に城があったので行ってみた。景色がなかなかいい。別の道から駅へ戻ることにした。女の人に駅への道を聞くと丁寧に教えてくれた。僕がちゃんと行くかどうか振り返って見ていてくれて感激。駅のホームで列車を待っていると、無茶苦茶遅れていて、放送で70分とか言ったようだ。それなのに回りの人はため息や文句の一つも出ない。

1時間くらい待ってやっと来た列車に乗ってオクセンホルムに行った。この列車はコンパートメント式になっていた。随分飛ばすので急行に乗ってしまったかとちょっと心配した。オクセンホルム駅でもだいぶ待った。予約していないので宿が満員でないか心配。

やっと来たウィンダミア行き、夢にまで見た列車だ。すごくローカル。石垣のある草原の中を進む。湖は最後、遠くにちょっと見えたと思ったら駅だった。すごく小さな駅で嬉しくなってしまう。

インフォメーションで5.5ポンドのB&Bを紹介してもらって行くと、「ヴィクトリアン・ハウス」の名に恥じない古いかわいい家で、ブザを押すとおばさんが出て来て、僕が「Hello. I have a reservation for tonight.」と言い終わらないうちに、「さーさ、よく来たね。まあ入って入って。私は日本人が大好きよ。まあ部屋を見なさいな。」みたいな感じで迎え入れられた。部屋はシングルのかわいい部屋。窓から湖が少し見える。それから1時間くらいいろいろと話した(注:一方的なおしゃべりを聞いていた)。最初に自分で見つけた宿がこれだからすっごく嬉しくなって自信も湧いてきた。おばさんに言われた通りインフォメーションに行ってスコウフェル・パイクに登る道(注:当時はこれがカンチェンジュンガのモデルだと思っていた。結局は登らなかった)と夜のボウネスでのトーク(注:観光客向け、湖の自然等についての語り)のことを聞いた。

その後、先に食事を済ますことにしてリーズナブルと勧められたクレセント・ハウスだったか(ハーフ・ムーンという意味らしい)店に行った。1.75ポンドの定食はちょっと高いけどステーク・アンド・キドニー・パイが食べられるし(注:イギリス文学によく出て来るこの食べ物をいつか食べたいと思っていた)、いつもハンバーバーみたいなのは味気ないと思って入った。ティーはポットに入って出て来ていっぱい飲んだ。でも期待したステーク・・・はどうも日本人の舌には合わない。満腹で店を出て、右の方から湖岸まで歩いて降りて行った。

渓流を横切ってしばらくで、出た。あこがれのウィンダミア湖。リオ(ボウネス)の桟橋の突先(写真)に座って、じっと見つめていた。ヨットに乗りたいなあ。ずっと岸に沿って何キロも歩いた。ここがリオ湾、ダリエン、屋形船湾なんて思いながらヤマネコ島らしい島も見えた。なんとメンドリとヒヨコ岩まであるので楽しくなってしまう。

トークはむずかしくて眠くなった。良く歩いた今日も。でも来て良かったなあ。ここに1週間くらいいたくなった。(注:でも忙しい日本人の習性で湖水地方には3泊しかしなかった。)

1日目の小遣い帳 1日目の旅程
ユーストン駅までのロンドンの地下鉄 £0.60 ロンドン・ユーストン駅発 9:45
昼食 0.72 ランカスター着 13:15
列車内で飲んだコーヒー 0.24 ランカスター発 15:10
B&B予約手数料 0.45 オクセンホルム着 15:25
夕食 1.95 オクセンホルム発 16:20
トーク 0.25 ウィンダミア着 16:45
絵葉書 0.14    

2日目(ウィンダミア湖)

イギリス風の朝食はベーコン・エッグ、シリアル、ポット入りティーとなかなか良かったけど、一人テーブルで、隣で団体がワイワイやって食べてるとちょっと寂しくなる。この点ユースの方がいいかな。

駅に35pで荷物を預けた。今日は全く予定無し。リオ(ボウネス)から船で北極(アンブルサイド)まで行くと、そこにユースがあった。(写真:船から見たリオ沖の小さな島々) 今日はそこにしようかと思うほど良い場所だ。

バスに乗ってグラスミア湖まで行った。ワーズワースのダブ・コッテージは90pもするので入るのをやめて、そこから湖に沿ってライダル・ウォーター湖経由でアンブルサイドまで歩いて戻った。それがすっごく良かった。何度こういう所で生活したいと思っただろう。かわいいきれいな湖に木が茂った小島が浮かび、岸辺は草原、見上げれば明るい丘、静かな水の音と鳥の鳴き声。まさにユートピア。

ライダルウォーター湖に流れ込む小さな渓流から手ですくった水はすっごいうまかったなあ。ああいう水をアマゾン海賊達はいつも飲んでるなんてうらやましい限りだ。(注:この後も調子にのって渓流の水をそのままあちこちで飲んでいるうちに数日後とうとうお腹をこわしました。後で考えてみると上の方では羊などを放牧している所も多いので水をそのまま飲むのは無謀でした。)

羊がいっぱいいた。(写真) Sheepの複数形がないのや、イギリス人が眠る時に石垣を通り抜ける羊を数えるのが理解できた。

エディンバラから来たという人に写真を撮ってもらった。道行く人とすれ違う時、顔を見合わせて微笑んでうなずくのはどこの国の人かな?ハローと言ってくれるのは?ただ横っちょ向いてしまうのは?こっちの子は男の子なら小学生でも革靴をはいているみたいだ。それにやっぱり少し気取っているかな。

ギリギリの時間でサンドウィッチを食べてスワン号に乗れた。ラッキー。これで南極(レイクサイド)まで行ってウィンダミア湖を縦断したことになる。ヤマネコ島(写真?)も見た。ハイ・グリーンランドも見た。南極も見た。湖は広い。やっぱりこの大きさを身をもって感じて初めてあの本が理解できる。いっぱいヨットがある。茶色のセール、赤のセール、白のセール。キャットリグ、スループ、ケッチ。クルーザー、ディンギー。

レイクサイドからちょうど蒸気機関車が出るのでニュービィまで往復切符(写真)を買って乗った。そしたらニュービィはすぐで何もない所。降りたのは僕一人。あほらし。帰りは歩いて戻った。ボウネスまでの船は一時間後。それで今2階のカフェテリアでぬるいコークを飲みながらこの日記を書いている。

リオ(ボウネス)(写真:リオの桟橋と白鳥)に着いてウィンダミア駅に向かって歩きながらB&B探しをした。5ポンド以下バス/シャワー無料が目標。10軒くらいあたったろうか?たいていがシングルは無しという。ダブルかツインを10ポンドくらいまで下げてあげるという所が1軒あったけど5000円なんてとんでもない。どこのB&Bにもブザーがあって1回か2回鳴らすとランドレディーが「Can I help you?」と言って出て来る。「この道路沿いにはシングルはあまり無いし、No Vacancyだろうから脇道に入って見つけたらいいよ」という人がいた。それで駅の近くにいっぱいあったから、その辺りで探そうと思っていくつか見逃して行くと、そう行かないうちに4軒続けてB&Bがあって、その最後のが5ポンドと書いた板を出している。

たぶんダブルかツインだろうなと思ってブザーを押すと、すっごく早口でしゃべりまくるレディーが出てきてシングルは無いけどトリプルの部屋を5ポンドで使わせてくれるという。信じられないけど当然のように言うしバスも無料でタオルまで貸してくれた。ペギイはおしゃべりだからここのレディーみたいになるのかな?すぐ近くのパブを紹介してくれた。夕食がそこで食えるという。パブにはもう入りたくなかったけど(注・ロンドンのパブで食べた夕食がたまたまハズレだった)行ってみるとなるほど安いし良かった。ソーセージ、エッグ、チップスで1ポンド、それにハーフ・ビター21p。

(注:B&Bを探す時に、最初は「シングル・ルームはありませんか?」と尋ねていたのが間違いでした。たいていのB&Bはダブルかツインの部屋なので、シングルにこだわっていると思われるとどこでも「無い(No single)」と言われてしまいます。ダブルでもツインでも部屋が空いていれば一人でもたいていは泊めてくれました。)

宿に戻るとなんと僕の部屋に誰か入っている。驚いて「Is this your room?」と聞いてみたが、僕もB&Bそのものを間違ったかもしれないと思って少々不安だった。レディが出てきて「客が増えたのでダブルの部屋に移した」そうだ。こっちの方が落ち着けるいい部屋だった。洗面器、鏡台、暖炉、洋服ダンス付き8畳くらいの部屋にダブルベッドで5ポンドだ。一流ホテルとたいして変わらない設備なのに。

2日目の小遣い帳 2日目の旅程
B&B「ヴィクトリアン・ハウス」 £5.50 ボウネス発 ??:??
荷物一時預け 0.35 アンブルサイド着 ??:??
MGバス:アンブルサイド〜グラスミア 0.52 アンブルサイド発 ??:??
昼食 0.58 グラスミア着 ??:??
地図 1.00 アンブルサイド発 ??:??
蒸気機関車:ニュービィ往復切符 0.50 レイクサイド着 ??:??
缶コーラ 0.25 レイクサイド発 ??:??
夕食 1.21 ボウネス着 ??:??

3日目(ウィンダミア〜ケズウィック)

朝こんなに眠かったのは初めてだ。8時半にリズミカルにドアをたたいてランドレディーが起こしに来た。朝食はベーコン・エッグ+ソーセージ+たっぷりティーがあってなかなか良かった。

でも今日は雨。ウィンダミア湖でボートに乗れないのはすごく心残りだけどスコットランドの帰りにまた来れると思って今日はケズウィックまでマウンテン・ゴート・バス(MGバス)で行くことにした。すごく気持ちのいいドライバーだった。グレンリディングで降りて(写真:アルスウォーター湖)乗換えのバスの発車まで30分間あるので、その間にアイラ・フォースの滝を見に行こうと思って歩き出したけど地図を見ると遠い。ヒッチをしようと手を上げるけどどの車の運転手もこっちを見もしない。仕方なく、とにかく歩いて行って次の村まで行けばMGバスのバス停でもあるだろうと思って行くと何も無かった。しょうがないので駐車場のような所で2〜3度手を上げながら乗せてくれる車を待った。

ナショナル・トラストの人が「モーニング!」と声をかけてきたので、尋ねるとMGバスはバス停以外のどこでも止まってくれるそうだ。バスはかなり遅れてきて手を上げると本当に止まってくれた。これまた気持ちのいい運転手で、この後お世話になることになる。ブンブン飛ばしてケズウィックに着いた。スーパーでパン・ジュースを買った。なるほど安い、44pだ(あとでコーラ買って62p)。公園を探してそこで食べた。

今日は出来ればバターミアに泊まろうと思ってMGバスにまた乗った。今度の運転手も「ハロー」と言ってきてくれて気持ちいい。ここからバターミアまではすっごくいい道路だった。いいというのは景色で、道はすごい急勾配、急カーブ、それに狭い。でも景色は最高だ。(写真) 一番に推薦する。途中、すごく格好良い滝もある。でもバターミアの村は農場が何軒かあるだけで安い空いているような宿があるようには見えない。

クランモック・ウォーター湖まで牧場の中を歩いて行った。湖は神秘的だった。これほど静かで神秘的な湖を見たことがない。風がないから湖面は鏡のようだし霧のベールにつつまれていて向こう岸まで見えない。一人、小さなセールのついているゴムボートを静かに漕いでいる。(写真) 僕もそういうことが無茶苦茶したかった。いいなあ。皆キャンプしている。テントを持ってこなかったのがすごくくやまれる。

今度はバターミア湖(写真)に行こうと歩き出したけど、道路から岸へは降りていけないようで、戻る途中なんとユースがあった。やった!と思って入っていくと、「空き:男5人、午後5時オープン」と書いてある。横で待っているらしい少年にハローと言うと生意気にもうなずくだけだ。何となくイヤな気分になった。トーマス・クックを調べると今日ここに泊まると明日エディンバラへは9時頃しか行けないと分かった。それでケズウィックに戻ってユースかB&Bを探すことにした。ロンドンからの列車が良かったせいか、早く列車に乗りたい。別の道から湖に降りて行ってバス停に戻った。今日はすごくいい所にいるのにそう楽しくないのはやはり雨のせいかな?でも雨具無しで歩いている人も多いし、バックパッカーは雨合羽を着ていて、皆平気そうだ。

MGバスに乗り込んで「ハロー」と言うと、喜んで何かしゃべり始めたけど何かがスティッキーだって文句を言っているみたいだったが分かんない。またすごい景色を見た。ケズウィックに着いて、B&Bがどこにたくさんあるか運転手に聞くと、なんと連れて行ってくれた。MGバスでだ!このマウンテン・ゴートという名前はすっごくいい響きを持っているなあと思う。(写真:MGバスの切符) B&Bはどこもシングル無しか空きなし(これがウィンダミアに比べると断然多い)で、教えてもらったユースも満員で、仕方なくインフォメーションで紹介してもらったのが4.8ポンドの所。あまりよくなかった。といっても、昨日のB&Bが良すぎたのかもしれない。

3日目の小遣い帳 3日目の旅程
B&B £5.00 ウィンダミア発 10:15
MGバス:ウィンダミア〜グレンリディング 1.40 グレンリディング着 11:00
MGバス:グレンコイン〜ケズウィック 1.00 グレンコイン発 11:50
昼食 0.62 ケズウィック着 12:20
MGバス:ケズウィック〜バターミア 0.80 ケズウィック発 14:30
MGバス:バターミア〜ケズウィック 0.80 バターミア着 15:02
B&B予約手数料 0.45 バターミア発 17:45
夕食 1.15 ケズウィック着 18:20

4日目(ケズウィック〜ペンリス〜)

朝食は4人掛けテーブルに2人イングランド人、1人ニュージーランド人、僕が日本人でインターナショナルだった。でも他の3人はネイティブだから話になかなか加われない。

近くの湖、ダーウェント・ウォーター湖(写真)を見に行った。島が浮かんでいてとてもきれいだ。もう少し時間があればボートに乗れたのになあ。スキドウが高くそびえている。たったの900mくらいなんて信じがたい。北アルプス級の高さに見えるのはなぜだろう?

ペンリスまでのバスからの景色はすごくきれいだった。

4日目の小遣い帳 4日目の旅程
B&B £5.00 ケズウィック発 10:25
バス:ケズウィック〜ペンリス 1.01 ペンリス着 11:15
(続く)   (続く)  

ということで、あわただしく湖水地方を離れてその後スコットランドへ行ったのでした。もっとゆっくりしたらいいのに、初めてのヨーロッパだとあれも見たいこれも見たいで本当に自分で忙しくしていました。

それから4年後、1984年の6月にもう一度湖水地方を訪れました。その時はレンタカーで回って5泊しました。残念なことにその時は旅日記を付けていなかったみたいでどこをどう回ったのか詳しく覚えていないのですが、ハード・ノット峠という凄い急坂のある狭いけど景色の素晴らしい道を通ったのが印象的でした。その急坂はローギアにして勢いをつけて途中で止まらないようにして一息に登らないと途中で立ち往生してしまうような坂道でした。1回目の旅行でやり損なった「手漕ぎボート」にも乗りましたが、どこの湖で乗ったのかよく覚えていません(^^;)。きれいなきれいなターン・ハウ湖(写真)を見たのもこの時でした。

写真はいろいろと撮ってあるのですが、どの写真がどの湖なのかさっぱり分からなくなってしまいました。次の写真はどれも湖の名前が分かりません。ご存知の方は是非お知らせ下さい。

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