旅作りのヒント【こだわりの旅】

日本の中の異世界「桃岩荘」

Since : 2002/01/13
Last update : 2002/01/13


いざ、桃岩荘へ

学生時代、ユースホステルを利用しながら北海道を旅行中に、「北海道3大キチガイ・ユース」というものがあるらしい、その中でも礼文島の「桃岩荘」というのが一番スゴイらしい、という噂をあちこちで耳にしました。それから20年後、ワクワク・ドキドキしながら稚内発礼文島行きの船に家族連れでとうとう乗っていました。

桃岩荘のヘルパー達による大歓迎の儀式は、船が礼文島の香深港に着く時から始まりました。スリーナイン号という車で港からユースまで向かう間に、日本標準時から桃岩時間へ時計を30分進める時差の修正をして、知性・教養・羞恥心を途中のタイムトンネルに置き去ります。車から玄関までは我が家4人のために敷かれたレッドカーペットを歩き、扉を開けると笛や太鼓の鳴り物入りの歓迎を受けました。その数分後には、もう1台のブルーサンダーエース号を迎えるために我が家も鳴り物入りの歓迎をする方に回ってました。

息子は、礼文島到着の4時間後には、「将来、桃岩荘のヘルパーになりたい」、「来年の夏もまた桃岩荘に来たい」と言っていました。

夜のミーティングは、おもしろおかしい島の観光案内で始まりましたが、その後、噂通りの「歌と踊り」となりました。でも「下品さ」はないし(上品でもないけど) 、1人で歌わされたり踊らされたりということもなくて、皆一緒なのでとても楽しい一時でした。

愛とロマンの8時間コース

翌日は「愛とロマンの8時間コース」に参加です。礼文島の最北端スコトン岬までバスで行って、そこから西海岸沿いに桃岩荘ユースまで25kmくらいの道を約11時間かけてユースの仲間と20人くらいで歩きました。崖あり、青い海あり、砂浜あり、スコットランドのハイランドを思わせるような起伏に富んだ緑の草原を歩き、暑い日だったのでトレイルを横切って流れる渓流で喉をうるおし顔や手を濡らして、森を抜け、ようやくお昼の休憩地点に付き、「圧縮弁当」と呼ばれるユースの弁当を食べました。残念ながら途中で妻はリタイアして4時間コースに変更しました。

そこからは急な斜面を一気に海岸まで下ります。こういう難所で助け合ったりして「愛とロマン」が生まれるかも、ということで名付けられたコース名なのですが、その実態は「汗と涙」とも言われているかなりハードなコースです。「8時間コース」というのも、コースの途中がその終点になっているので、そこからさらに2〜3時間ユースまでは歩きます。クタクタになって、ユースにようやく到着です。最後は全員で手をつないで歩いてゴールインしました。ユースではヘルパー達による盛大な出迎えと、無事な到着を祝う歌と踊りの儀式がまたありました。

翌日・翌々日は、酷使した足が痛くてあまり歩けず(と行っても10kmくらい歩いたけど)、礼文岳に登るのや礼文滝まで歩くのは次回のお楽しみに取っておいて、近くの港まで行ってウニ丼を食べたりして、のんびりと過ごしました。

落陽

桃岩荘は礼文島の西海岸にあるので、天気が良ければ水平線に沈む太陽が素晴らしい夕焼けとともに見れます。毎日、桃岩時間の夜7時頃になると、日没を眺めます。

最初の晩は晴れてたけど、遠くに雲があったのか空気の透明度がいまいちだったのか、水平線と太陽の間に少し隙間を残して日が沈みました。最後の晩は、時々雨も降る天気のパッとしない一日だったのに、たくさん雲を残す空が真っ赤に染まって、太陽と水平線の間に全く隙間を空けない見事な落陽を見ることが出来ました。隙間有りで水平線に沈む太陽は今までも何度か見たことがありましたが、隙間がまったくないのを見たのは初めてでした。

当然、落陽の儀式があります。ユースの玄関前で、ヘルパーのギターと共に拓郎の「落陽」や、「ぎんぎんぎらぎら夕陽が沈む〜」等を歌って太陽を見送りました。

また来るぞ〜

桃岩荘には、仕事も遊びも何事にも真剣に取り組んで、それをとことん楽しみに変えてしまう文化があります。例えば、朝の掃除です。雑巾がけは、部屋の1辺に皆で並んでラッパの合図で部屋の反対側までレースをします。掃除は自由参加ですが、ほうきや雑巾の数以上に参加希望者が集まってました。

家族連れの利用者も多いそうです。年配者も泊まっていました。年配の人のコメント:「こんなに楽しい宿に泊まったのは初めてだけど、こんなに疲れる宿に泊まったのも初めて」。この夏のお盆に泊まったばかりだけど、子供がどうしてもと言うのでまた来たという家族が、我が家と入れ違いでやって来て、港での盛大な見送りに加わってくれました。

ユースを出る時には、いつまでも、いつまでも、姿が見えなくなっても、声が届く限り「行ってらっしゃ〜い」「行って来ま〜す」「また来いよ〜」「また来るぞ〜」と呼び交わし、じーんと感動します。港でも、フェリーが出て姿が見えなくなるまで、見えなくなってもしばらくの間、呼び交わしが続きます。他の乗客の目は気にせず、岸壁と船の上で、皆でユースで覚えた歌と踊りを一緒にやります。日常の中の非日常、濃くて感動の多い桃岩の世界でした。


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